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樹皮に生息していた甲虫の幼虫
ノースカロライナ自然科学博物館の昆虫学者エイドリアン・スミス氏はノースカロライナ州立大学のキャンパスの真ん中にある枯れ木に気づいたそうです。彼はその樹皮を剥がして、その下に何があるか見てみることにしました。
そこにいたのは、これまで誰も記録したことのないジャンプをするチビヒラタムシ科の甲虫(Laemophloeus biguttatus)の幼虫でした。
不思議な飛び方
下の画像に見られるように、この小さな幼虫は、体を丸めた状態で空中に飛び出す前に体を締め付けるようです。幼虫の離陸速度は秒速0.6mで、水平方向に平均2体長、垂直方向に平均1.5体長移動します。その姿は、まさに圧巻です。
このジャンプする甲虫の幼虫がユニークなものであることはすぐには気づかなかったそうです。この発見を全米の甲虫専門家に伝えて、誰もこのジャンプ行動を見たことがなかっことがわかりました。
ほとんどの甲虫やジャンプする昆虫は、その強力なバネを助けることができるようにラッチ機構を使用しています。しかし、この幼虫の場合、研究者はラッチ機構を見つけることができませんでした。1秒間に6万フレーム撮影可能なカメラや、マイクロCTスキャン、走査型電子顕微鏡による画像処理で全身を詳細に観察しても何も見つからなかったのです。
さらに、幼虫の体組成を調べ、ラッチ機構を使わずに筋肉だけであんなに高くジャンプできるのかどうかまで調べました。その結果、この小さな生き物には、それをやってのけるだけの筋肉がないことがわかったのです。
幼虫がエネルギーを貯蔵していることは分かっていますが、「どこに」貯蔵しているかはわからないそうです。
研究者達は、幼虫が、爪の代わりに、体全体を緊張させ、片方の足が動かなくなると、頭を内側に丸めて、強力なジャンプをすることを明らかにしました。このジャンプ自体は、以下のビデオで見ることができます。
幼虫がなぜジャンプするのかは不明です。捕食者から逃れるため、自分を大きく移動させるためなどいろいろな理由がありそうです。
木は伐採されてしまう
残念ながら、この昆虫がいた木は今、ノースカロライナ州立大学のキャンパスから消えてしまいました。
日本人研究者も、別の種類の甲虫の幼虫がジャンプするのを見たことがあるそうです。この甲虫は、分類学的に同じ科でありながら属が違うので、遠縁となります。
皆さんも、甲虫の幼虫を見かけたら、ジャンプしてくることを想定して身構えたほうがよいかもしれません。
下記は蛆がジャンプする動画です。この蛆も甲虫の幼虫と同じ樹から採取されたそうです。今は伐採されてしまったこの木に秘密があるんじゃないかと思えてきます。
参考文献