野生の多様な音声
草むらに出れば、たくさんの生物が生息しています。意識して聞こうとすれば、水の流れ、風に揺れる木々、カエル、コオロギ、鳥など無数の生物が音を出していることに気づくでしょう。それらの音はさえずり、叫び、摩擦音、羽ばたき、高い音、低い音など多種多様です。
音響生態学者バーニー・クラウスはそのような生物が奏でる音の風景を4500時間以上にわたり収集してきました。
クラウス氏は音声を収集していく中で、自然の音はまとまりのない混沌としたものではなく、全体でまとまったオーケストラ的な構造となっていることに気づきます。
例えば、ケニアの川沿いで録音すると、コウモリは周波数の一番高いところで音波を出し、昆虫は真ん中あたり、ハイラックスがその少し下、ゾウが低いところで鳴いています。
各生物が互いに独特の関係を保ちながら発声しているのです。それは水の中でも同じようにオーケストラが奏でられているそうです。
音声の目的は交尾、警戒音、食料の確保、戯れなどさまざまなものがありますが、各生物の声は一連の未使用の周波数帯域や異なる時間帯に分かれていく傾向にあります。人間の文明社会で携帯電話の無線を異なる周波数帯に割り当てるようなものでしょうか。
音の風景が失われる
しかし、人間の手により、この豊かな音の風景が失われてきているとクラウス氏は言います。
下記の音響分析図は米国カリフォルニア州のリンカーン・メドウズで収集されたものです。
1年後、部分的に伐採された後の音響分析図は下記のように多様性が失われます。
クラウス氏は「1枚の絵は1,000語にも匹敵するかもしれないが、1つの音の風景は1,000枚の絵に匹敵する」と言います。音の風景の圧倒的破壊者となってしまった人間ですが、今こそ音の風景を聞き、調和を考えるときが来ているのかもしれません。
参考文献
https://www.youtube.com/watch?v=uTbA-mxo858
野生のオーケストラが聞こえる みすず書房 2013年
※みすず書房 のWebサイトにてクラウス氏の収集音声が聴ける