心疾患は日本でも年間数十万人の命を奪い続けています。心臓発作(心筋梗塞)の後、心臓がどのように自己修復するかについて、科学者たちは詳細に研究しています。
新たな研究により、心臓発作で心筋が損傷した後に心臓が自己修復する方法には、身体の免疫反応とリンパ系(免疫系の一部)が極めて重要であることが明らかになりました。
この研究の鍵は、マクロファージが果たす役割の発見にありました。ご存じの方も多いと思いますが、マクロファージは、細菌を破壊したり、有用な炎症反応を開始したりする細胞です。このマクロファージは、心臓発作後の現場で最初に対応する細胞であり、血管内皮増殖因子C(VEGFC)と呼ばれる特殊なタンパク質を産生する報告されています。
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米国イリノイ州ノースウェスタン大学の病理学者エドワード・ソープ氏は「我々は、マクロファージが心臓発作後に心臓に殺到して、損傷したり死んだりした組織を『食べ』、新しいリンパ管の形成を誘発し治癒を促進するVEGFCを誘導することを発見しました」と語っています。
研究者は『ジキルとハイド』の表現を借りて、VEGFCを産生する「良い」マクロファージと、VEGFCは産生せず、炎症反応を起こして心臓や周辺組織にさらなる害を及ぼす「悪い」マクロファージがいるとしています。
心臓が完全に修復されるためには、死にかけた細胞を除去する必要があります。このプロセスは、マクロファージが重要な役割を果たすエフェロサイトーシスとして知られています。研究チームは、このプロセスを実験室内の細胞やマウスで研究し、適切な種類のVEGFC産生マクロファージが適切な修復作業を行う方法を突き止めました。
今後の研究では、心臓に存在する有用なマクロファージの数を増やし、有害なマクロファージの数を減らす、あるいは排除することで、健康な状態に回復する可能性を高める方法が検討される予定とのこと。
「私たちの課題は、心臓の修復を早めるために、VEGFCを投与するか、マクロファージにVEGFCをもっと誘導させる方法を見つけることです」とソープ氏は言います。
心臓発作を起こすと、心臓が血液を全身に送り出すことができなくなり、心不全になる危険性が高くなります。このリスクは、ベータ遮断薬などの現代的な薬で軽減することができますが、まだリスクは残っています。
科学者たちは、心血管疾患がどのように引き起こされるのか、また、心臓疾患のリスクをより早期に診断する方法について理解を深め続けています。
今回のような研究がさらに進めば、心臓発作に反応して起こる生物学的プロセス、特に、心筋の修復に必要なVEGFCタンパク質を引き起こすエフェロサイトーシスのプロセスについて、より詳細な解明が進むでしょう。
参考文献