べき乗則のグラフで上位と下位の間をつなぐ直接のリンクは非常に少なくなります。富裕層と貧困にあえぐ人々の間で直接のリンクは非常に少なく、中間として慈善団体や搾取する会社が入ったりします。
目次
シャーマンと製薬企業
現代医療の主流は西洋医学による薬剤を使った治療です。一方、発展途上国や未開のジャングルにいるまじない師、シャーマンは圧倒的マイノリティでしょう。それでは製薬企業とシャーマンの間に接点はないのか? その間には民族植物学者が入ったりするそうです。
マーク・プロトキン著『メディシン・クエスト―新薬発見のあくなき探求』を紹介します。クラゲの蛍光タンパクで日本人がノーベル賞を取ったように、自然界には無数の研究ネタがあります。本書では猛毒のカエルから採取したエピバチジンから鎮痛剤を作ったり、イモガイの猛毒からジコノチドという薬剤開発につながったりした、などなど。
そして、インディオの治療師が使った植物を基に鎮痛剤のコデイン、マラリア治療のキニーネ、ガンに使うポドフィロトキシンは作られたそうです。
また、動物も薬用植物を使うそうです。新世界に持ち込まれたメキシコの豚は抗寄生虫作用のある同じく新世界に持ち込まれたザクロの根を食べるそうです。他にも動物が利用する驚きの話がたくさん出てきます。
西洋医薬品の由来
後半は民族植物学者である著者が会ったシャーマンの話です。本物のシャーマンは樹皮の手触りで種類がわかるし、薬用知識も豊富で西洋研究者も及ばないほどです。西洋医薬品のほとんどは現地の人々が使っていたものから来ていると著者は言います。アステカの文献から薬として使われていた植物185種の85%で、何らかの有効な成分が認められたそうです。
シャーマンというと神秘主義的部分も外せません。8万種もある植物から適量でどの植物の、どの部分をときに組み合わせて使うことをどうやって知るのか著者は驚いています。味や匂いで区別できます。シャーマンが夢で治療法を知る例も紹介されています。夢の話は科学主義では否定的になるだろうが、ベンゼン環の構造は夢で発見されたではないかと著者は言います。
今後も生物模倣学はいろんな分野で期待できると思えますが、べき乗則のグラフで上位は増え、下位は減少していくことが多々あります。残念ながらこれまでシャーマンがいた部族、生物、植物の多くが消えつつあります。著者は自然環境の侵食と破壊を危惧し、最後にこう言います「われわれとこの惑星を共用している生き物たちとの関係を、もっとうまくこなせたら、きっと明るい未来がくる。」
未開の文明は本当に未開か?
文化相対主義という視点がありますが、西洋医学的観点から優劣を比べても果たして未開の文明は未開なのか?いろいろ価値観が揺らぐという話でした。