ホーム健康生身で人間はどのくらいの高さに耐えられる?

生身で人間はどのくらいの高さに耐えられる?

高地での出産の問題

16世紀、インカ帝国を征服したスペイン人は標高4,000mにポトシの町を建設しましたが、女性や家畜は出産時に麓まで下りる必要がありました。先住民と違い、高地で生まれたスペイン人は死産または生後2週間で死亡しました。先住民との混血が進んで人間の出産の問題は克服されましたが、牛や馬は不妊の傾向が続いたため、都をリマに移すことになりました。

ポトシ市 クレジット:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%88%E3%82%B7#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Potosi1.jpg

気球の登場

1783年、ピラトール・ド・ロジエとマーキス・ダルランドが世界初の有人気球飛行に成功しました。その時の高度は約900mでした。

気象学者のジェイムズ・グレイシャーは気球の飛行と高山病の症状についての貴重な記録を残しています。1862年9月5日の飛行で、離陸から1時間で高度約8850mに到達します。それまでの高度記録(7,315m)を破りましたが、グレイシャーの手足は麻痺し、時計を読めなくなり、相棒の顔もよく見えず、声も出ず、一時的に目が見えなくなりました。グレイシャーの報告によれば、11,000mに到達したようです。第三者の推定では9,144mに到達したとされます。相棒のヘンリー・コックスウェルは完全に意識を失わず、水素を放出して、気球を降下させました。コックスウェルは両手が麻痺し、放出バルブのローブを歯で引っ張るしかありませんでした。

ジェイムズ・グレイシャーは右側で意識を失っている。ヘンリー・コックスウェル は歯で放出バルブのロープを引っ張っている。

なぜ高山病になるのか?

海面の標準大気圧は約760トルです。大気の21%は酸素、0.04%は二酸化炭素、残りは窒素となります。つまり、海面での酸素の圧力(酸素分圧)は159トルです。エベレスト山頂では約53トル。

さらに肺の中の酸素分圧も問題になります。水蒸気の分圧は47トルであり、高度19,200mでは大気圧が47トルとなるため、肺は水蒸気で飽和し、酸素や他のガスが入る余裕がなくなります。

酸素ボンベなど、純粋酸素を吸いながら、肺の正常な酸素濃度を維持できる最低気圧は100トルで、これは高度約1万mに相当します。

飛行機の窓が割れた場合、どうなる?

高度約1万mを飛行する航空機の窓が吹き飛ぶと、客室内の空気が一気に外へ噴き出し、外気と同じ気圧まで下がります。この高度ではすぐに酸素マスクを着ける必要があります。着けなければ30秒で意識を失います。高度1万mで純粋酸素を吸っても約95トルにしかなりません。座っているなら、呼吸も問題なくできますが、動こうとすると、意識を失ってしまうかもしれません。筋肉を動かすのにより多くの酸素が必要となるからです。第二次世界大戦中、爆撃機の砲撃手は座っている間は問題なかったのに、機体中央に這って戻る途中で意識を失うことが多かったそうです。

高高度に順化:未解明のメカニズム

高高度に順化すると、呼吸が速くなり、2、3週間で通常の5~7倍になるそうです。呼吸を抑制する機能が働きにくくなると、二酸化炭素濃度が下がり、血液の酸度が下がってしまいます。人間の血液の酸度はpH7.4程度です。血液の酸度を回復させるのは腎臓が関わりますが、腎臓では間に合わないのです。しかし、血液の酸度を回復させるメカニズムは解明されていません。

高地で生まれ育った人

低地で育った人が高地に住んでも、生まれたときから高地にいる人ほどに順化することはできません。高地で生まれ育った人は胸部がかなり大きく樽のようで、肺の容量も大きくなります。また、肺などの組織に多くの毛細血管が張り巡らされ、解剖学的にも適応しています。

宇宙空間に生身で飛び出すとどうなる?

高高度の究極が宇宙でしょう。真空状態の宇宙に生身で飛び出すとどうなるのでしょうか? 身体が瞬時に爆発するというのが一般的に思われていたことだと思います。しかし、実際には、人間の皮膚は丈夫で柔軟性があり、すぐに爆発することはありません。血管にも圧力がかかっているため、血液がすぐに沸騰することはないそうです。

息を止めると空気の泡が血中に入って、脳卒中を引き起こしたり、肺を破裂させたりするので、口を開けておくとよいとのこと。

宇宙に飛び出して死ぬ原因としては、高高度の問題と同じく、酸素の不足となります。10秒ほどで意識を失います。もし、2分以内に救助できれば、生存可能かもしれませんが、超えてしまうと、酸素不足で内臓などが壊死し死亡にいたります。

宇宙空間は-270℃ですが、熱を伝える物質が存在しないため、すぐに凍えて死ぬことはないそうです。ただし、水分が蒸発していくので、熱が奪われていきます。

低酸素症は苦しいのか

1875年にフラン人科学者3人が気球で8000m以上上昇したときに事故が起きました。酸素供給装置は積んでいたものの、酸素を使わないうちに全員意識を失ってしまいました。3人のうち2人が死亡。助かった人は次のように言っています。「あらゆる意味で苦しみはない。それどころか、体中から喜びがわきあがり、明るい光で満たされているかのように感じる。何も気にならなくなって、大変な状況にいることも危険のことも考えなくなる」

新型コロナウイルス感染症に感染した人の一部で、ハッピー・ハイポキシア」=「幸せな低酸素症」と呼ばれる症状を抱えるケースがあります。これは酸素を十分取り込めていないのに息苦しさを感じないケースとなります。

どのくらいの高さから落下しても生きられるか

1972年1月26日、ヴェスナ・ヴロヴィッチは客室乗務員として飛行機JAT367便に搭乗していました。チェコスロバキア(現チェコ共和国)の上空でテロ攻撃により機体は爆破されます。

運良くヴロヴィッチは生き残ります。生き残れた理由として、機体が他の部分から離れ、地面に向かって急降下したときに、機体内の食料カートに留まれたためであるとしています。機内が減圧されると、乗客と他の乗組員は機外に吹き飛ばされ、落下して死亡しました。ヴロヴィッチは機体に固定されたまま、森林と雪に覆われた山腹に斜めに着地したため、衝撃が緩和されたと考えられます。診断した医師は、彼女の低血圧のために機内の減圧後すぐに気を失い、衝撃による心臓破裂を防いだと結論付けている。

さらに、墜落現場で彼女を発見したブルーノ・ヘンクは第二次世界大戦で衛生兵を務めており、救助が来るまでの処置を行いました。

ヴロヴィッチは 頭蓋骨1か所、脚2か所、椎骨3か所を骨折し、一時は腰から下が麻痺していたそうです。手術後に脚の自由を取り戻し、散発的ながらも飛行勤務に就き続けました。

飛行機が爆破されたときの高度は10,160mであり、史上最も高い所からパラシュートなしで落下して生き永らえた人としてギネス世界記録に認定されています。

ヴェスナ・ヴロヴィッチ
入院時の ヴェスナ・ヴロヴィッチ

参考文献

人間はどこまで耐えられるのか 河出書房新社

https://gigazine.net/news/20200619-humans-exposed-space-without-spacesuit/

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%82%B9%E3%83%8A%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%83%AD%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%83%E3%83%81#cite_note-4

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