分離脳の患者
難治性のてんかんの治療で2つの大脳半球を接続している脳梁の切断手術を行い分離脳となった患者がいます。
神経科学者マイケル・S・ガザニガらはこの分離脳の患者に対して実験を行いました。
分離脳の患者は左視野に画像が提示されても、その情報は右半球にしか伝わらないようで、何の画像か答えられません。分離脳であるため、言語優位性半球である左半球に伝わらないためのようです。
下記の動画では「鍋」の英単語を左視野で見ても、答えられません。目を閉じて左手で絵を描くと、鍋が描かれます(左手は右半球が制御)。別の場面では左視野で「のこぎり」、右視野で「ハンマー」を見ます。患者は見たのは「ハンマー」と答えます。目を閉じて左手で描かせると「のこぎり」を描きます。なぜ描いたのかと問われても、わからないと答えています。
あたかも2つの人格があるかのようで、自分とは何か、意識とは何か考えさせられます。
後付けする脳
別の実験では、右視野で鶏の足、左視野で雪が積もった小屋を見せられた患者が最も関連するカードを選びます。
患者は右手で鶏のカード、左手でシャベルのカードを選びます。選んだ理由を尋ねると、鶏の爪を見たので鶏のカード、鶏の小屋掃除にシャベルを使うからと答えました。
驚きなのは、患者がためらいなく、一瞬で理由づけを行っていることです。
このことは、分離脳でない人間でも無意識下では矛盾を埋める辻褄合わせが行われることが示唆されます。人間の多くの行動は必ずしも合理的な行動をとるわけではなく、後付けで合理的(と思われる)理由をつけていることが多いのではないでしょうか。
人間は原因と結果がはっきりしている物語に惹きつけられます。しかし、天災を始めとする複雑系がもたらす現象は原因がはっきり見えないことが多いです。それでも、天罰だとか、理由付けをどうしてもしたくなるのが、人間の性質であるようです。
参考文献
スペリーとガザニガの分割脳実験と認知機能
https://esdiscovery.jp/knowledge/basic/social003.html
TGazzaniga MS. The split brain revisited. Sci Am. 1998 Jul;279(1):50-5. doi: 10.1038/scientificamerican0798-50. PMID: 9648298.